1955年に発生した「森永ヒ素ミルク中毒事件」で、障害が残っている被害者の予測される死亡率が今なお一般住民よりも高いことが、大阪府立成人病センター(現大阪国際がんセンター)の疫学調査で分かった。一方で、追跡可能な被害者全体の死亡率は一般と変わらないレベルにまで低下したことも判明した。調査を委託した恒久救済機関「ひかり協会」(本部・大阪市)は「障害がある被害者への健康支援策を一層充実させる必要がある」としている。
同協会によると、被害者は現在、62歳前後で、昨年12月末時点で1万3445人。うち約860人が障害被害者として同協会から生活保障にあたる「ひかり手当」などの支給を受けている。
疫学調査は82年に始まった。その時点で協会との常時連絡を希望していた27歳前後の被害者6221人を追跡し、予測される死亡率を算出して全国一般住民の死亡率と比較した。
その結果、46歳ごろまでは最大1.55倍と有意な差があったが、以後はほぼ同率に落ち着いた。ただ障害のある被害者については2~3倍の高率が以後も続き、57歳以後の死亡率は、「生活手当対象者」(障害基礎年金受給者)で3.67倍、「調整手当対象者」(非受給者だが生活維持が困難)で2.95倍だった。部位別では肺炎で亡くなる割合が高く、重い障害による誤嚥(ごえん)が関係しているとみられる。
この事件は、いったん「全員治癒」とされながら、69年になって深刻な後遺症が分かるという経緯をたどった。自ら被害者でもある同協会の前野直道専務理事(62)は「死亡率が一般の方と同等になったことは安心材料だが、一方で障害被害者の課題もデータで示された。一層の支援策を進めたい」と話す。
また、被害者が「発がん年齢」に達していることから、がん罹患(りかん)率についても調査した。医療費給付の際に提出された診断書などでがんの種類や罹患時期をリストアップし、全国のがん罹患率と比較したところ、全体としてはほぼ変わらなかったが、肝臓がんは1.56倍と、やや高い数値だった。
調査を担当した同センターの田淵貴大医師(40)は「ヒ素ミルクを飲んだ乳児の治療では輸血などが行われ、当時まだ知られていなかったC型肝炎ウイルスなどに感染した人が多かったためではないか」と推測する。【三野雅弘】