2025年度運動方針 第一次案
2025.2.16 第4回常任理事会
1. はじめに
本年は1955(昭和30)年に、西日本一帯で130名の死者と13463名の被害者を出した「森永ひ素ミルク中毒事件」が発生して70周年を迎える年である。この70年間を簡単に振り返るとともに、これからの守る会運動と被害者救済について表明する。
(1)事件発生からひかり協会設立までの19年
被害者の親は事件発生直後から被災者同盟を立ち上げ、森永乳業と交渉するなどの行動を起こした。しかし、森永乳業は厚生省(当時)や専門家の力を借りて、交渉を打ち切り、被害者の家族たちの運動を封じ込めた。
1969年に丸山博教授らによる日本公衆衛生学会での発表
を契機に「こどもを守る会」に再結集した親たちは、被災者同盟の時代の反省から、「全国単一組織を堅持する」「社会から支持される方針を掲げる」という2点を重視して運動を進めた。
そして、「こどもを守る会」の組織は強く大きくなり、子どもを救い守るという親の願いは社会から支持され、その結果1973年に「三者会談確認書」の締結、1974年のひかり協会設立を実現した。
(2)三者会談方式による被害者救済事業の50余年
「三者会談確認書」では、厚生省、守る会、森永乳業はそれぞれの立場と責任において、被害者救済のために協力することを確認した。
森永乳業は救済資金を出し続けることを約束し、ひかり協会が提示した予算の資金を出し続けてきた。救済事業に対しても誠実に向き合ってきた。
厚生省(現厚労省)も守る会やひかり協会の要請に応じて、被害者救済のための仕組みづくりを積極的に行い、都道府県等の自治体に対しても救済事業に対する協力を進めるように通知等を幾度も発出してきた。
守る会自身も、毎年のひかり協会事業・予算に対する意見・要望を出し、ひかり協会との二者懇談会は、本部でも現地でもひんぱんに実施してきた。また、救済事業協力員活動やふれあい活動などひかり協会の救済事業にも長年協力してきた。これらの役割を果たしながら、守る会組織は親から被害者本人へスムーズに引き継がれた。
こうして、被害者の意見を尊重した三者会談方式による被害者救済事業は50年以上も発展しながら続いている。
(3)恒久救済の完遂に向けた取組
本年中にすべての被害者が70歳に達する。この年に、ひかり協会が「終生にわたる事業と運営・体制の構想」を決定した。これは親たちの悲願である恒久救済完遂の道筋を示すものであり、何としても成功させなければならない。
(4)感謝と決意
ここまで前人未到の道を切り開き歩み続けてきたことに私たち自身が誇りを持つと同時に、これまで守る会と被害者救済に理解と支援をくださった多くのかたがたに深く感謝するものである。
そして、この先も、すべての被害者が亡くなり恒久救済が完遂するまで歩み続けるよう決意する。
本年9月に開催予定の「70周年記念式典・合同慰霊祭」は、亡くなられた被害者への慰霊の場でもあるが、関係者への感謝と恒久救済完遂への決意の場でもある。守る会は成功のために力を尽くさなければならない。
2.救済事業の推進に責任をもつ活動
(1)「終生にわたる事業と運営・体制の構想」の具体化
ひかり協会による被害者救済事業の終盤をどのようにするのかについて、2022年6月の全国総会で「終生にわたる事業と運営・体制の構想に係る守る会の提言」(以下、「守る会の提言」)作成の取組は、救済事業開始直前の「恒久対策案」作成の取組にも匹敵する、極めて意義を持つものである」との運動方針を決定し、その方針に基づき組織として討議を深めた。そして2023年6月の全国総会において、多くの意見を集約した「守る会の提言」を決定した。当初の予定を延長し、1年半に及ぶ議論を経ての決定であった。2023年度は、「守る会の提言」を尊重してひかり協会理事会が作成した「終生にわたる事業と運営・体制の構想」(案)(以下、「構想」(案))に対して積極的な討議を行った。2024年5月には、守る会や専門家等の意見を踏まえた修正版「構想」(案)が作成された。修正版「構想」(案)では、「三者会談」を継続するためには守る会の当事者として役割は欠かせないことが重視されており、恒久救済の完遂のためにも守る会の役割を果たすことを決意した。2025年3月にひかり協会理事会が決定した「構想」の理解を深め、「三者会談」に可能な限り長く出席できる仕組み等について、検討を始めなければならない。
(2)第三次10ヵ年計画の推進
① 2つの重点事業への協力
今年度は第三次10ヵ年計画後期1年目であり、「40歳以降の被害者救済事業のあり方」(以下、「あり方」)及び「金銭給付基準」、さらに2つの援助要綱に基づく重点事業を中心に取り組まれている。各都府県本部は「事業推進の軸」(二者懇談会及び救済事業協力員)の活動を通して、より主体的に事業推進に取り組む。また、「構想」に基づいた「自主的健康管理の援助要綱」(改正案)や「救済事業協力員制度要綱」(改正案)などに対して積極的に意見を提出し、2026年度以降の救済事業について理解を深める。
自主的グループ活動については、心身の健康づくりや社会参加の機会が少ない障害のある被害者に対する近隣への外出支援など意義のある取組であるため、オンラインでの実施なども含めて工夫しながら取り組む。
ふれあい活動についても、障害者施設やサービス付き高齢者向け住宅で生活している被害者への訪問などが行われるようになったが、引き続き参加した守る会役員や協力員が障害のある被害者とのつながりを深め、障害のある被害者を孤立させない活動として重視して取り組む。
「対策対象者名簿」に被害者の名前を登載する取組は、事件の風化防止とともに、高齢化に備えて行政による適切かつ有効な相談対応が行われるための重要な取組である。引き続き個人情報の保護に留意しながら、全会員の登載をめざす。
また、2025年5月から実施されている「被害者実態把握調査2025」に対して、守る会は全会員の回答をめざす。
② 救済事業協力員活動
救済事業協力員制度要綱に基づき、健診(検診)受診や事業参加の勧奨、健康や日常生活についての話題交流など、被害者同士の対話をより重視して取り組む。積み上げてきたこれらの経験を活かし、「連帯して健康を守るネットワークづくり」をさらに推進する。
協力員研修会議では、「自主的健康管理の援助要綱」(改正案)や「救済事業協力員制度要綱」(改正案)の検討を行い、2026年度以降の協力員活動についての理解を深める。
「被害者実態把握調査2025」への協力についても、すべての被害者が70歳となる節目の年であり、被害者全体の現状や課題を明確にして救済事業に活かすためにも重視して取り組む。
これらの活動は、守る会の重要な組織的協力であり、三者会談確認書に基づく救済事業推進の役割と責任を果たす貴重な取組である。
(3)現地事務所の事務局運営に対する協力
高齢になった被害者の現状と複雑な社会保障制度を踏まえて救済事業を実施し発展させることが重要となっている。そのために、守る会は組織として事務局の運営に以下のとおり協力する。
① 現地二者懇談会やブロック二者懇談会に出席し、守る会の方針・意見、被害者の声を積極的に伝える。特に、経験の少ない地区センター長の在籍するブロックでは円滑な事務所運営となるよう協力する。
② 現地交流会や協力員研修会議の開催にあたっては、守る会としての意見をもとに主体的な協力をする。
③ 地域救済対策委員会には、守る会組織を代表する立場で出席し、運動方針や常任理事会決定に基づく意見を述べる。
④ 以上の取組等を通じて、すべての職員が被害者救済の精神を引き継げるように働きかける。
3.「三者会談」構成団体の信頼に基づく協力関係の強化
(1)行政協力
守る会は「三者会談」及び「三者会談」救済対策推進委員会において、三者会談確認書に基づく行政協力を要請していく。特に、救済事業の実施と深く関連する保健医療制度、障害者総合支援法施策、介護保険制度などの充実や介護保険優先原則に係る課題の解決、対策対象者名簿登載の被害者からの相談があった場合の市区町村における適切な対応が行われる仕組みづくりなどについて、厚生労働省に協力を引き続き要請する。また、森永ミルク中毒事件全国担当係長会議では、市区町村の窓口課が他の関係部署(保健所・介護保険担当課・生活保護課など)や地域包括支援センターなど関係機関と連携して、健康課題や生活課題などに取り組んだ事例が報告されている。対策対象者名簿登載の被害者からの相談対応が適切に行われるためにも、森永ミルク中毒事件全国担当係長会議が充実するように、ひかり協会と協力して行政協力の仕組みづくりを推進する。
都府県本部の活動では、引き続き都府県等の行政協力懇談会に役員が出席し、事件の風化防止の取組とともに、高齢期の健康や介護の課題や障害のある被害者の抱える課題の改善、対策対象者名簿に基づく保健所や障害福祉・高齢福祉などの行政及び地域包括支援センターなど関係機関との連携促進について、ひかり協会とともに行政協力を要請する。
(2)森永乳業との協力関係
森永乳業に対しては、引き続き三者会談の調印団体として救済事業の完遂に責任を持つことを求めると同時に、救済事業推進に協力し合う関係を維持する。
① 森永乳業と守る会による二者協議の場で、救済事業についての理解と協力を求める。
② 森永乳業製品の安全・安心のため、社内での事故防止及び意識向上の取組強化を要
請する。
③ 引き続き守る会役員が社内研修に協力し、社内における事件の風化を防ぐとともに救済事業に対する森永乳業の責任について理解を広げる。
④ 「70周年記念式典・合同慰霊祭」の成功に向け、協力して取り組む。
(3)専門家の理解と協力
障害のある被害者への相談対応や事例検討、検診結果に対するフォロー、高齢期の健康課題に対するアドバイスなど2つの重点事業の取組の具体化に向けて、約300名にのぼる専門家による助言や協力は極めて重要である。
地域救済対策委員に推薦された守る会委員は、協力員活動や自主的グループ活動など守る会の事業推進に対する取組状況や「自主的健康管理の援助要綱」(改正案)や「救済事業協力員制度要綱」(改正案)に対する守る会の検討状況などの説明に責任を持つことで、関係する専門家の事業に対する理解と協力を促進させるよう取り組む。
4.組織強化の取り組み
(1)全国本部の強化
2025年度は、決定された「構想」の理解を深め、周知するために常任理事会の活動を通じて全国本部の組織強化を図る。また、50余年に及ぶ三者会談方式による救済事業の継続・発展における守る会の役割と責任について確信を深める。
(2)都府県本部及び支部の強化
2025年度も各都府県本部及び支部は、運動方針に基づく救済事業の推進に責任をもつ活動に積極的に取り組み、その活動を通じて組織の強化を図る。
特に協力員による「呼びかけ」活動や自主的グループ活動、ふれあい活動を重視する。
(3)会員拡大
2024年度の新たな入会者は 名であった。
「構想」の具体化に責任を持つための守る会の組織強化おいて、会員拡大は不可欠の課題として重視する必要がある。そのため、2025年度は協力員による「呼びかけ」活動や現地交流会を通じて、引き続きアンケート①被害者の過半数会員の入会を全都府県本部でめざす。
(4)学習
70歳及び75歳で救済事業に関連する、保健・医療・福祉・介護などの社会保障施策が制度移行する。2025年度は、決定された「構想」の理解と合わせて、救済事業に関連する制度移行についても二者懇談会などでの学習を重視する。さらに地域の状況に即して、他の障害者団体等との連携した取組を継続する。
(5)財政
全国本部及び都府県本部は、会費免除申請も含め、安定した財政運営をめざす。
(6)広報
2025年度は、2023年度の新型コロナウイルス感染症の分類移行を経て、多くの都府県本部で対面による支部活動や自主的グループ活動、ふれあい活動が取り組まれた。その活動報告の投稿により、機関紙「ひかり」の毎号の紙面が構成された。
2025年度も積極的な都府県本部活動の投稿をめざす。
ホームページによる事件と救済事業、守る会運動の理解促進に取り組む。
ひかり協会会報での「守る会からのお知らせ」を継続する。
都府県本部の広報紙等の発行を促進する。